「兎のさかだち」(1977年) 富岡多恵子

“キモノより抜粋

「婦人雑誌を見ると毎月たいていキモノのことを記事にしている。

そしてたいてい、職業のためにしろ、楽しみにしろ、キモノを着る機会の多いひとが、日本人がだんだんキモノを着なくなったことを嘆いたり、叱ったり、残念がったりする文章を書き、また喋っている。

どうやら、この国には、キモノ族という種族があり、その種族が時にキモノ学を庶民大衆に教える立場をとり、キモノの着方を知らぬ 若い人を叱るのである。

たいていは、日本人なのだから、キモノの美しさを忘れずにもっとキモノを着ましょう、ということになっている。

キモノ族は男女を問わずこういう態度なのがおもしろい。

芸能でも研究の対象にされるようになれば、その芸能のかたちがすでに終わっているからだと言われるが、キモノ族のキモノ学にもそれに似たところがある。

昔の庶民が木綿のキモノにタスキがけで拭き掃除をし、四季のキモノに馴染むことで身につけたキモノの美学を、活字や着付け教室の俄か勉強で 覚えた知識で発揮せよというのは無理である。

キモノ族の一部にある、キモノを着ない多くの庶民大衆への嘆きや時にでる軽蔑は、そこに住むひとが都会へ出稼ぎに出ることでしか食えぬ ためにだれもいなくなった山奥の藁葺きの家を別荘に買い、車でやってきて人間は自然に帰らなければだめになるとうそぶいている都会の金持ちを思わせる。 」

 

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