小出楢重随筆集(岩波文庫)   


【やせ我慢のお洒落ができない体質】

明治20年、大阪生まれの画家。

戦前、日本に西洋文化が入ってきて混乱するさまが愉快に描かれているエッセイです。

目にうつるすべての物を茶化していて、可笑しいったらありません。例えば…

《「今はもう皆あれだす、うちの子供にもあんなん買うたろ」といってようやく着せてみた洋服を、私は心斎橋すじの散歩で沢山見受ける。即ち、女の子は、近所の女給かダンサーの扮装となって街頭に現れる。その両親は、どうだす、見てんかという顔で歩いている。》

私をふくめ、高度経済成長期以降に生まれた人間は、「昔の人は、気高く丁寧に暮らしていた」「昔の人は、粋で・いなせで・しゃんとして・凛として・はんなりして・楚々としていた」等、雑誌の“和風特集”の決まり文句そのままの幻想を抱きがちですが、それを見事に壊してくれる本です。大阪弁で。


虚弱体質でたいへんにスリムだった小出楢重は、自分を「骨人」と呼び、冬が大嫌い。

「骨人」ゆえ寒さにまったく耐性がなく、着物の裾から「股引を2.3寸はみ出させて」火鉢を抱いていたとのこと。和服の下へ厚いシャツ2枚、ズボン下2枚を重ねて着込んでいるのです。ご本人はシャツを着込むのはイヤなのですが、彼の時代、体の弱い人が寒いかっこうをしていると生死にかかわりますよね…。 伊達の薄着は禁物、禁物。

(参考画像。これは、日本で一番有名なオムコさんの昭和20年代の足元です。モモヒキがニュっと。彼はこれから街へ映画に出かけるところ→つまり、けっこうおめかしした状態なのです。 )

「すてきな着物姿を大勢の人に見せることによって、収入を得る職業」(俳優など)じゃなければ、見た目より健康を優先するのがよさそう。医療費削減のためにも。時代はクールビズ でウォーム ビズなんですから。


■これは昭和10年ころの祖父です。病弱で徹底的な骨人でした。袖からもスソからもシャツが出ています。人にかっこいい姿を見てもらう職業ではなかったし、まあ。こんなもんで。

■関連話題 「野暮……まことにけっこうだ。“イキ”な着こなしは、今の世では日本の古典芸能にたずさわる人たちの“特権”となったようであり、ゆえに“イキ”になるのはこれらの人にお任せして、シロウトはシロウトらしく。」

 

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